2013/12/07

BMWのバイク、K100RSのメーター

わたしバイクも乗りますが、これは他人様のバイク。
以前にお問いあわせがあって、今回修理を引き受けることになりました。

症状は後輪を回してもスピードメータが反応しない、とのこと。
スピードメーターの計器単体なら動く、とのことなので、センサまわりの不調のようです。
WEBで検索するといくつかヒットするので、比較的よくある故障のようです。

先人のWEBを熟読、メーターの構造を十分にチェックしてから取り掛かります。



センサーはシャフトドライブのリアハブに付いていて、リアハブに刻まれた歯車状の凹凸にマグネット&コイルのピックアップが反応してパルス信号を発生します。

コイルから発生する信号は三角波っぽい微分波形、このままではメーターを振らせることはできないので、波形整形回路がメーターASSYの中に入っています。
この基板で0.1V~1V程度の微小な信号を増幅、速度に応じたパルスに整形します

以前コンデンサが液漏れしたらしく、コンデンサが交換してあります。
ただ基板の状態が悪く、腐食&剥離のため断線してしまっていました。
こうなってはセンサの反応がないのも道理です。
かすかに残ったパターンから回路図を起こし、どう接続されていたかを見つけ出します。

回路図を起こすのは手間ですが、行き当たりばったりで部品を交換しても手もどりが多いだけ。
それにメーカーの設計者の意図を読み取るのは勉強になります。
書き起こした回路。電圧電流は実測。機能は推定。

意外だったのはセンサ信号をコンパレータ回路で受けていること。
いったんリニアに増幅しているとばかり思っていました。
スピードが上がるにつれ、センサの信号レベルも大きくなっていきますが、ローパスフィルタで
受けることでうまくバランスさせています。

後段の回路も一工夫。ローパスフィルタを通した上で増幅回路にヒステリシスを持たせています。
パルス性ノイズの対策と見ました。

一点読みきれなかったことは入力抵抗を+-で違えてあること。(5.1k と 8.2k)
LPFの定数のため、というよりわざとオフセットを発生させているのかなと思いますが、はたしてどうでしょうか。停車時など、0km/h付近のノイズ避けを意図しているのかも知れません。
今回の修理には直接関係ありませんが。

パターンの修正とコンデンサの交換。剥離したパターンは悪さをしないよう取り去ります。
入力のコンデンサはタンタルですが、わずかながら逆電圧がかかる回路です。

今のところ大丈夫そうですが、両極性の電解コンデンサに予防交換。
修理が済んだらまずは単体テスト。
白クリップからは0.1Vp-p程度の矩形波を入力

出力は約6V振幅。常用オシロは故障中なので、30年もののロシア製オシロにて。

つぎに組み合わせテスト。
トランスからもれた交流磁界でセンサを動作させてみました。
ACアダプタの漏れ磁束を拾ってる様子。50Hzで55km/hくらい?



私の作業はここまで。後はお返しして実走テストしていただきましょう。


(BMW K100RS 2V スピードメーター)

2013/11/25

テンキー接触不良の修理

知人からとある機械のテンキーが反応しないときがあるんだけど、電池切れかな?と話が。

この機械、電卓のようなゴムのテンキーで操作します。
番号に応じて内部でソレノイド(電磁石)が動きます。
電池の電圧を測ると動作中でも1.4Vくらい。このくらいならまだ問題ないでしょう。

操作の最初に”*”キーを押すのですが、「ピッ」という確認音がしないことがあります。
症状からキーのへたりと推測、話をすると行きがかり上修理することに。

キーパッド分解

周囲のパネルを外してキーパッドをとりだしたところ、ゴムでできたキーの裏に黒い部分が。
これで基板側のパターンを導通させるようですが、たしかに抵抗値に差があります。
ダメな”*”キーは200kΩ以上、他のキーは数kΩ~数十kΩです。
 黒い部分、試しにすみっこをアルコールを染ませた綿棒で拭いてみると色落ちします。
どうやら導電ゴムではなく導電塗料の塗布で導通しているようです。
長期の使用で塗膜がやせてしまったのが原因ですね。
特にこのキー(*)の抵抗が大きかった



正しくはメーカー修理を依頼して部品交換ですが、「とりあえず動けばいい」という要望で簡易修理です。
導電塗料の持ち合わせがないので、応急処置としてアルミテープを貼ります。
アルミテープを貼るだけなので、糊が劣化するとはがれる可能性もありますが、
なにかあればまた呼ばれるだろう、という前提で今回はこういうやり方で対処。
持ち主にインチキ修理だぞと念をおして、今回は終了。
他のキーの作業内容は事情により隠します

修理したモノは電磁ロックの操作キーでした。


2013/11/23

横河の回路計 3201の調整

  先日オークションで入手した横河の回路計 3201の調整をしました。

1994年製

何の変哲もないアナログテスタですが大きな特徴がふたつ。
  • でかい
  • メータが高感度
寸法は190 × 124 × 71 mm 。重さも約700g、専用ケースまで含めると1.2kgあります。(電池含まず)
メーターも10μAフルスケール、アナログメータとしてはかなり高性能です。
このメーターのおかげで直流電圧測定時の内部抵抗は100kΩ/V、低圧レンジでこそ安物デジタルテスタに負けますが、 高電圧レンジでは(精度はともかく)ベンチタイプDMMにも圧勝です。
なによりも電源不要かつフローティングで使えることで意外に適用範囲は広いです。

さてうちに到着したこのテスタ、
わずかに電流計の表示が少なめに出る、と説明にあったのですが、触ってみたところ
  • 直流電圧レンジが、低電圧レンジでアンダースケール、高電圧でオーバースケール
  • 電流レンジは全レンジでアンダースケール
という症状がありました。ぎりぎり規定値内なので「動作品」には間違いないですが、「もと高級品」として期待していたこともあり、いまいち気持ちがしっくりきません。校正をやり直して内部の半固定抵抗を廻してみましたが、あまり改善しませんでした。


ネットでダウンロードした取扱い説明書には回路図も付いています。
しばらく眺めていたところ、メーターの感度に誤差があるのでは?と気づきました。
"M"がメータ。フルスケール調整はVR1で行う

このメーターは10μAフルスケールですが、感度調整は直列の半固定抵抗しかありません。
レンジごとの抵抗の分圧比はフルスケールでメーターにちょうど10μA流れることを前提に設計されています。
電流値がずれた状態で調整したなら、抵抗値がずれ、分圧比や分流比もずれてしまいます。

実際は水平にして測定
さっそく測定すると… 9.81μAです。仕様の範囲内ですがやっぱりずれてました。
感度が過敏なのにフルスケールだけ合わせたとすれば、症状とも符合します。
この場合感度が高すぎるので、メーターに並列抵抗をかませれば改善するはずです。

メーターの両端電圧を測って、必要な並列抵抗を計算すると296kΩが必要でした。
そんなぴったりの抵抗はないので、手持ちの300kΩ 5%精度の抵抗から選別します。
テストなので精度もおおざっぱ、2,3本測って、いちばん近いのを使いました。
できれば金属皮膜抵抗をおごってやりたいところですが、1本2円のカーボン抵抗です。

テストで付けたが、いまもそのまま

再調整の結果、直流電圧、直流電流のどちらのレンジも誤差1%以下に追い込めました。
内蔵の分圧、分流抵抗の精度も十分出ているようですね。
切りのいい電圧、電流値では針が太い目盛りの幅に収まります。
メータの直線性もよく、フルスケールの1/6~1/3~1/2~と加える電圧を変化させても
ぴたっと目盛りに一致します。
DC12Vレンジ、2.00V測定中

 たかがジャンクテスタですが、思い通りに直ると気持ちのいいものです。
今回はメーターの経年変化が感度過敏の方向だったのも幸いしました。

( YOKOGAWA YEW 3201 circuit tester )